マイクロ法人の資金繰り

 2017-3-24の記事(生存率6%の世界)の通り、会社の生存率は極めて低く、設立から10年後に存続している会社は100社中6社しかありません。 本記事では典型的な会社設立のケースを三つ取り上げ、それぞれ五年間の資金繰り(キャッシュフロー)を分析し、5年、10年と生き残る方策を考えてみたいと思います。

1.典型的な脱サラ起業のケース

  • 資本金:800万円 
  • 借入金:1200万円(自己資金) 
  • 売上高:100万円(二年目以降100万円づつ増加)

1-1.設立初年度の経費

  • 設立費用:30万円 
  • 家具備品:50万円 
  • 地代家賃:180万円(月額15万円) 
  • 敷金礼金:30万円 
  • 役員報酬:360万円(月額30万円) 
  • 諸経費:60万円(月額5万) 
  • 合計:710万円(初年度)

1-2.二年目以降の経費

  • 地代家賃:180万円(月額15万円) 
  • 役員報酬:360万円(月額30万円) 
  • 諸経費:60万円(月額5万) 
  • 合計:600万円(年間)

1-3.資金繰り

  • 設立時 2000万円
  • 1年後 1290万円(売上0、経費710) 
  • 2年後  790万円(売上100、経費600) 
  • 3年後  390万円(売上200、経費600) 
  • 4年後   90万円(売上300、経費600) 
  • 5年後 ▲110万円(売上400、経費600)

1-4.分析

 潤沢な自己資金で会社設立。毎年100万円づつ順調に売上を伸ばすものの、固定費負担に耐えられず起業から5年目に資金ショート。従業員などを雇えば資金ショートの時期はさらに早まります。過去の勤務先では優秀だった人材が脱サラして倒産する典型的なケース。 

 これほど多額の自己資金を用意しても、ゼロから自らの食い扶持を稼ぎつつ、家賃を負担するのは非常にリスキーな行為です。確度の高い売上計画があり、かつ、優秀な人物が起業した場合でも10中8・9倒産します。

2.自宅を本店に起業したケース

  • 資本金:800万円 
  • 借入金:1200万円(自己資金) 
  • 売上高:100万円(二年目以降100万円づつ増加)

2-1.設立初年度の経費

  • 設立費用:30万円 
  • 家具備品:20万円(自宅) 
  • 地代家賃:0万円(自宅) 
  • 敷金礼金:0万円(自宅) 
  • 役員報酬:360万円(月額30万円) 
  • 諸経費:30万円(月額2.5万) 
  • 合計:440万円(初年度)

2-2.二年目以降の経費

  • 地代家賃:0万円(自宅) 
  • 役員報酬:360万円(月額30万円) 
  • 諸経費:30万円(月額2.5万) 
  • 合計:390万円(年間)

2-3.資金繰り

  • 設立時 2000万円 
  • 1年後 1560万円(売上0、経費440) 
  • 2年後 1270万円(売上100、経費390) 
  • 3年後 1080万円(売上200、経費390) 
  • 4年後  990万円(売上300、経費390) 
  • 5年後 1000万円(売上400、経費390)

2-4.分析

 人件費の次に大きな固定費である家賃と諸経費の一部を節約したケース。店舗やオフィスを構えるということはそれだけで大きなリスクを背負います。 

 家賃と諸経費を節約した結果、損益分岐点売上高が低く抑えられ、5年後には資金残高が増加し始めます。このまま売上を伸ばし、繰越欠損金を活用しながら適切に節税すれば純資産は増加していきます。 幸運にも売上高が順調に増加する想定のため生存率6%の仲間入りが出来そうですが、売上が伸びなければ、いずれ94%の仲間入りでしょう。

3.妻社長マイクロ法人設立のケース

  • 資本金:200万円 
  • 借入金:200万円(自己資金) 
  • 売上高:50万円(二年目以降)

3-1.設立初年度の経費

  • 設立費用:30万円 
  • 家具備品:20万円(自宅)
  • 地代家賃:0万円(自宅) 
  • 役員報酬:0万円(別途サラリー有り) 
  • 諸経費:30万円(月額2.5万) 
  • 合計:80万円(年間)

3-2.二年目以降の経費

  • 地代家賃:0万円(自宅) 
  • 役員報酬:0万円(別途サラリー有り) 
  • 諸経費:30万円(月額2.5万) 
  • 合計:30万円(年間)

3-3.資金残高

  • 設立時 400万円 
  • 1年後 320万円(売上0、経費80) 
  • 2年後 340万円(売上
    50、経費30) 
  • 3年後 410万円(売上100、経費30) 
  • 4年後 530万円(売上150、経費30) 
  • 5年後 700万円(売上200、経費30)

3-4.分析

 サラリーマンのまま妻を社長にしてマイクロ法人を設立したケース。サラリーマンの身分ではマイクロ法人の事業にあまり時間を割くことはできないものの、妻の協力を得ながら少しずつ売上を積み上げます。 

 最大の固定費である人件費と家賃がかからないため損益分岐点売上高が極めて低く、少しの売上でも純資産が増加し始めます。 今日の飯(サラリー)は確保済みであるから、売上を作ることに焦る必要はなく、ローリスクミドルリターンの事業に腰を据えて取り組むことが出来できます。よほどの不運に合わない限り、10年後に存続している可能性は極めて高いでしょう。

4.考察

 以上のことから導かれる結論は一つ。売上高が損益分岐点を超えるまでは、固定費を最小限に抑えること。これが設立した会社を10年後も存続させる方法だと思います。 創業したての会社が売上を増やすことは容易ではなく、事前に策定した売上計画などは絵に描いた餅に過ぎません。

 一方で固定費は自分の意思でコントロールできます。 自らは副業NGの会社に勤めながらも、妻を社長にマイクロ法人を設立する。実態は副業の法人化ですが、法人として究極の固定費削減方法であり、最もローリスクな起業スタイルだと思います。

 

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